親知らずが急に痛い…どうする？受診の目安と応急処置、治療の流れを解説

親知らずが急に痛むと、「虫歯なのか」「何か悪い病気なのか」と心配になるかもしれません。もちろん例外はありますが、実際には、親知らずの痛みの原因として最も多いのは「智歯周囲炎（ちししゅういえん）」と呼ばれる状態です。これは、親知らずの周りの歯ぐきに汚れや細菌がたまり、炎症が起きて腫れや痛みが出るものです。

智歯周囲炎の特徴は、痛みが「突然」強く感じられることがある点です。もともと汚れがたまりやすい環境が続いていて、あるタイミングで炎症が強まると、ズキズキした痛みや噛みにくさにつながります。

次からは、なぜ親知らずは汚れがたまりやすく、突然痛みやすいのかを、できるだけシンプルに整理します。症状の出方を知っておくと、「今どの段階か」「早めに相談すべきか」が判断しやすくなります。

なぜ突然痛む？（汚れが溜まりやすい構造が原因）

智歯周囲炎は、特殊な原因で突然起こるというより、汚れが溜まりやすい構造が背景にあることがほとんどです。親知らずは一番奥にあり、しかも生え方がまっすぐとは限りません。そのため歯ブラシが届きにくく、わずかな段差や歯ぐきのかぶさりの下に汚れが残りやすくなります。

汚れが残る状態が続くと、細菌が増え、歯ぐきが炎症を起こします。炎症が軽い間は「少し違和感がある」程度で済むこともありますが、疲れが重なったり、噛んだ刺激が入ったり、清掃が難しい状態が続いたりすると、炎症が強くなって痛みがはっきり出てくるのです。

つまり、流れとしては「生え方や位置の問題で清掃が難しい」→「汚れが残る」→「細菌が増える」→「歯ぐきが腫れて痛む」という一直線です。次に、具体的にどんな生え方だと起こりやすいのかを見ていきます。

生え方が中途半端・斜めだと清掃しにくく炎症が起こりやすい

親知らずが途中までしか出ていない、あるいは斜めに生えている場合、歯と歯ぐきの境目に**深いすき間（ポケット）**ができやすくなります。そこに食べかすや歯垢が入り込み、歯ブラシが届きにくい状態が続くと、汚れが停滞して炎症が起こりやすいのです。

とくに、歯ぐきが親知らずにかぶさっていると、その下は暗くて湿りやすく、細菌が増えやすい環境になります。普段は大丈夫でも、少し腫れが出たタイミングでポケットがさらに深くなり、汚れがより残りやすくなることもあります。すると、短い期間でズキズキした痛みや腫れに進み、「急に痛くなった」と感じやすくなるのです。

このように、智歯周囲炎は「磨き残しが増えやすい構造」が根っこにあります。次は、症状がどのように出て、どこから注意すべきかを整理します。

症状の出方（軽い痛み→広がるサイン）

智歯周囲炎の症状は、いきなり最悪の形で始まるとは限りません。はじめは「奥の歯ぐきが違和感がある」「押すと少し痛い」といった軽いサインから出ることが多いのです。ところが、炎症が強くなると、痛みの範囲や腫れが広がり、日常生活に支障が出る段階へ進むことがあります。

自己チェックのコツは、「今の症状が軽いか重いか」だけではなく、良くなる方向に向かっているか、広がる方向に向かっているかを見ることです。腫れが増している、噛むと痛みが強くなる、飲み込みや口の開きに影響が出てきた、といった変化は、早めの受診で軽いうちに止めたほうが結果的に楽になりやすいサインです。

次で、軽い症状から強い症状へ進むときの代表的な流れについて、端的に整理します。

歯ぐきの腫れ・押すと痛い・膿が出ている

症状は、まず歯ぐきの腫れや押すと痛いといった局所のサインから始まり、進むと膿（うみ）が出たり、口の中に嫌な味がしたりすることがあります。さらに炎症が広がると、飲み込みづらい、口が開きにくいといったつらさが出やすくなり、外から見ても分かるほど顔が腫れることもあります。加えて、状態によっては発熱やだるさなど、全身の症状が重なる場合もあるのです。

ここで大切なのは、「このまま我慢すれば、そのうち治るだろう」と決めつけないことです。

悪化の方向へ進んでいるサインがあるなら、早めに歯科で炎症の元を減らし、必要な処置を受けたほうが安心につながります。次は、親知らず以外が原因のこともある、という「例外」をお伝えします。

智歯周囲炎以外の可能性

親知らずのあたりが痛むとき、多くは智歯周囲炎ですが、痛みの感じ方だけで原因を言い切ることはできません。場所が奥で見えにくい分、「親知らずが原因だと思っていたら、違う歯が原因だった」ということもあります。

大切なのは、どの原因だったとしても、つらい症状がある以上は「何が起きているか」を確認し、適切な対応につなげることです。判断は診察と検査で行えますので、不安を抱えたまま決めつけず、受診時に状況をそのまま伝えることが近道です。

痛みの原因が親知らずなのか手前の奥歯の虫歯なのか

親知らずの痛みだと思っていても、実際には「手前の奥歯（第二大臼歯）」が原因になっていることがあります。親知らずが斜めに生えている場合、手前の歯との間に汚れがたまりやすく、そこから虫歯や炎症が進むことがあるためです。また、痛みが「いつもズキズキする」というより、噛んだときだけ強く痛む、特定の角度で当たると響く、といった場合は、噛み合わせの負担や歯の状態が関係している可能性もあります。

ただし、これらは症状だけでは決められません。奥歯は見えにくく、親知らずの周囲は炎症が起きると腫れで状況がさらに分かりにくくなります。自己判断で「原因はこれだ」と結論を出すより、歯科で適切に確認し、必要な処置に進むほうが結果的に安心です。

次は、歯科医院ではどのような順番で治療が進むのかを整理します。

歯科医院での治療の進み方について

親知らずが痛いとき、「行ったらすぐ抜かれるのでは」と不安になる方も少なくありません。ですが治療は、いきなり結論を急ぐのではなく、基本的に順番があります。まずは今出ている痛みや腫れを落ち着かせ、そのうえで「なぜ起きたのか」「繰り返さないためにどうするか」を検討する流れです。

とくに痛みが強い時期は、体も心も余裕がなくなりやすいものです。だからこそ、歯科では最初に炎症の原因（汚れや細菌の停滞）を減らし、必要に応じて薬も組み合わせながら、日常生活に支障が出にくい状態へ戻すことを目指します。

このあと、まず急性期に行われやすい処置（洗浄・消毒、必要に応じた薬）を整理し、次に落ち着いた後の再発予防（抜歯する／管理する）を、無理なく判断できる形でお伝えします。

痛みが強い時期（急性期）：洗浄・消毒＋必要に応じて薬

痛みや腫れが強い時期は、まず親知らずの周囲を洗浄し、汚れや細菌のかたまりを減らすことが中心になります。智歯周囲炎のつらさは、炎症の「元」がその場に残っているほど長引きやすいためです。局所をきれいにし、炎症を起こしにくい環境へ近づけることが、痛みを落ち着かせる第一歩になります。

そのうえで、腫れの程度や症状の強さによって、必要に応じて薬を併用します。ここでも順番は大切で、「薬だけで何とかする」という考え方ではなく、まず局所の原因を減らし、必要なら薬で補うというイメージです。

次は、抗菌薬について誤解されやすい点を整理します。